『holy night』
ガチャン。手首に冷たい感触がする。そっと動かしてみる。
がちゃがちゃと金属のこすれ合う音がして、両腕が自由に動かない。眉をひそめて僕は、侑子さんを見上げた。
「どういうこと?」
月の光が侑子さんの冷ややかな笑顔を青白く浮かびあがらせていた。強い光をおびた瞳は、しっとりとぬれて輝いている。
「大丈夫よ。なにも怖いことなんか、ないのよ」
そう言うと、侑子さんは僕の頭を胸のなかに抱きしめた。コットンの布地越しにも、やわらかであたたかな感触が伝わってくる。僕の頭をぬらしたビールが、彼女の白いカットソーの胸元もぬらして、ブラジャーの形がくっきりと浮きあがる。自分の置かれている状況が普通じゃない、とわかっていながら、僕の下半身に血が集まりはじめている。どくん、どくん。だんだんジーンズがきつくなってくる。
「痛いのね。今、楽にしてあげるわ」
侑子さんは、僕の下半身に目をやると、ジーンズのジッパーに手をかけた。最後まで降ろしきると、どこに隠していたのか、はさみを取り出した。下半身に集まりかけていた血の気が一気にひく。
けれど、侑子さんはそれ以上の速さでTシャツを引きさいた。そうして、僕を横向きに転がすと、ビールでぬれたTシャツを皮膚からゆっくりと引きはがしはじめた。
「大丈夫だから、ね」
低くかすれた声で、ちいさな子供にでも言いふくめるように、やさしく繰り返す。侑子さんはむきだしになった僕の肌を、そこに染みついたビールを味わうかのように、すすりなめていく。まず、首筋を。鎖骨を。胸を。乳首を。彼女の生あたたかくざらざらする舌が、まるで軟体動物のようにうごめいて、僕の皮膚をはいずっていく。
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